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第171回 芥川賞・直木賞を予想する

2024年の本屋大賞ノミネートが発表されたころ、某書店のバイヤーとして勤務するH氏との雑談の中で、どの作品が賞を獲るかという話題が出ました。
H氏の予想は『黄色い家』で、個人的な応援の気持ちと期待も込めてと述懐していました。
過去の経験から、予想に私情を持ち込むと外れることが多いと思っていた私は、私情を挟むことなく『成瀬~』だと予想しました。
予想は予想に徹するべきだと。
結果は周知のとおりです。
さらに数カ月後の日本翻訳大賞においても、H氏の気持ちのこもった予想を横目に、私は受賞作を的中させました。
「しぇからしか!そげん言うんやったらくさ、次の芥川賞ば当ててみんね。なんでんかんでん、当たるわけじゃなかろうもん!」
予想が意外と当たるという私のつぶやきに対し、H氏は博多弁でまくし立ててきます。
「イベントたい!イベント!そこではっきりさせちゃるけん!」
関西方面に出自をもつH氏がなぜ博多弁だったのか、その謎はいまだに解明されないままですが、かくして「芥川賞・直木賞を予想する会」が誕生しました。

決戦は金曜日

7月12日(金)の19:00より、芥川賞・直木賞を予想する会は執り行われました。
参加者は私、H氏、N氏の3名。
はじめにそれぞれの事前予想を確認し合い、あれやこれやと論じ合ったのち、おのおの最終予想をしようという進行になりました。

各人の事前予想は次の通りです。
【芥川賞】
H氏:尾崎世界観『転の声』
N氏:朝比奈秋『サンショウウオの四十九日』、次点で松永K三蔵『バリ山行』
私:坂崎かおる『海岸通り』

【直木賞】
H氏:青崎有吾『地雷グリコ』
N氏:青崎有吾『地雷グリコ』
私:青崎有吾『地雷グリコ』

当日までに読んできた(読めた)作品はそれぞれ違う中で、『地雷グリコ』に関して予想が一致していたのが意外な感じがしましたが、有力候補であることのひとつの証左かもしれません。
事前予想とその理由をもとに、意見を交わしました。
各々の嗜好をここで詳らかにはしませんが、直木賞ノミネート作品に関して三人とも共通していたのは、普段の読書傾向からは外れているということでした。
にも関わらず(いや、だからこそと言えるのかもしれませんが)、『地雷グリコ』で一致していたのは興味深いなと改めて思います。
直木賞に関しては『地雷グリコ』への予想でみな終始一貫しており、最終予想もそのまま着地しました。

では芥川賞のほうはどうでしょうか。
ここでN氏についても記しておきたいと思います。
N氏は、90年代後半から2000年代はじめにかけて活動していた某オルタナティブロックバンドを愛好する女性で、かつては文学部に籍を置き日本の近現代文学を専攻していたということが会の中で明らかになり、その聡明な読み筋に何度もうならされることになりました。
そんなこんなで、思い思いに好き勝手なことを言っているうちに、予想が変わっていくさまが面白いなと感じました。

最終的な予想は次の通りです。
【芥川賞】
H氏:坂崎かおる『海岸通り』、朝比奈秋『サンショウウオの四十九日』のW受賞
N氏:坂崎かおる『海岸通り』
私:坂崎かおる『海岸通り』

【直木賞】
H氏:青崎有吾『地雷グリコ』
N氏:青崎有吾『地雷グリコ』
私:青崎有吾『地雷グリコ』

H氏のW受賞という攻めの姿勢はあるものの、最終的に3名ともほぼほぼ同じ予想に着地したのは意外でした。
この一致が何を意味するのかは、いまのところわかりません。
あとは結果を待つのみです。

余談

この会をするに当たって、なにか参考になるかなと思い文藝春社刊行の『芥川賞・直木賞150回全記録』を読みました。
タイトルの通り、芥川賞・直木賞150回を記念して製作された、これまでの道のりを振り返ったムック。
受賞作・候補作の基本的な情報に、写真や特別対談などを交えたもので、各賞の変遷を網羅的に追えたのが、思いのほか良かったです。
同書で紹介されているものの中から印象的だったものを、最後にいくつか紹介します。

戦場の授賞式

1937年、第6回の芥川賞受賞者、火野葦平は日華事変の初期、陸軍曹として従軍していたため、杭州の陣中で授賞式が執り行われたそうです。
賞品と賞金授与を託されたのは、当時、たまたま中国にいた小林秀雄だったそう。

同時ノミネート

今では考えにくいことですが、同じ作品が芥川賞・直木賞の両方にノミネートされることもあったようです。
例えば、1951年の第25回。
柴田錬三郎の「デスマスク」が両賞にノミネートされています。
いずれも受賞とはなっていません。

直木賞候補から芥川賞へ

第28回芥川賞受賞の松本清張「或る『小倉日記』伝」は、当初直木賞の候補作だったけど、永井龍男の推薦により芥川賞候補にまわり、そのまま受賞となったそうです。

第100回

記念すべき第100回は、芥川賞・直木賞ともにふたりずつ受賞となった。
しかし受賞記者会見に4人とも姿を現すことなかった。
留学中であったり、地方在住であったことが理由。

熱唱

第137回芥川賞受賞の諏訪哲史は、スピーチの途中で細川たかしの「心残り」を熱唱し始めた。
一番を無伴奏で歌い切ったそうである。

第150回

第150回芥川賞を受賞したのが、広島在住の小山田浩子さん。
お店にも何度も足を運んでくださっていることもあり、推している小説家です。
エッセイが広島本大賞にノミネートされていますが、大賞受賞を願っています。




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