1/20(土)、小林秀雄「美を求める心」を読む会を実施しました。
会の詳細を述べる前に、少し長い前置きを残しておきたいと思います。
この前置きを読んでくだされば、この会のなんたるかがおわかりいただけるのではないかと思います。
事の発端は12月の中旬、あるお客様が来店されたことにあります。
そのお客様は夫婦で来られて、店内をゆっくりとみられたあと何冊かの本をお買い上げいただきました。
そのチョイスから、本をたくさん読まれてきた方なんだなと感じました。
お会計時に二言三言、言葉を交わし、当店のオープンを言祝いでいただきました。
きっとまた来てくださるだろうという予感がありました。
その予感は思わぬかたちで当たることになります。
それから10日ほど経ったある日の昼下がり、ひとりの女性が来られました。
入店された瞬間に見覚えのあるお顔だなと思いましたが、思い出せませんでした。
しかしすぐにわかることになります。
女性は店に入ってくるなり、レジカウンターに座る私のもとへ歩いてきてこう尋ねます。
「選書とかってしてもらえたりします?」
私でよければということで選書を承りました。
選書に関するやりとりをするなかで、この女性が前述の御夫婦の方だということがわかりました。
ここから先、この女性をM氏とします。
なんでも、その日の夜、仲間内での忘年会があるという話で、M氏は仲間たちへのプレゼントとして本を贈ることを思いついたそうです。
その仲間のなかには夫のH氏も含まれているとのこと。
忘年会の参加者4名の特徴をメモに記すので、それぞれの人に合いそうな本を選んでほしい。
これがM氏からの依頼です。
こんなことがあるのかと驚きながらも、うれしく思い、そしてただただ感動していました。
メモを書き終えるとM氏は買い物に行ってくると言い、店を出て行きました。
私はM氏のメモからその人物の人となりを想像し本を選びました。
M氏のため、そしてその仲間のために頭をフル稼働させ一冊ずつ選びM氏の帰りを待ちました。
買い物から帰ってきたM氏に選んだ本と理由を説明しました。
M氏はとてもよろこんでくれました。
メモに記された人物像は年代もパーソナリティもバラバラで、まったく想像がつかなかったその会合のことを訊ねて、私はまた驚きました。
なんと小林秀雄の勉強会の仲間だということです。
小林秀雄の「美を求める心」という文章を月に一度集まって素読をしているというのです。
素読とは、その文章に意味の解釈を加えず、本の文字を声を出して読み上げることです。
寺子屋を思い浮かべていただくといいかもしれません。
先生が読み上げた文章を、生徒たちが後に続いて読み上げるあのスタイルです。
この素読をもうかれこれ7~8年、60回ほど続けているそうです。
「美を求める心」は10ページほどの短い文章ではあるけれども、素読をすると1回で40分くらいかかるそう。
それを2ターンもするというストイックな内容です。
何度読んでも、読むたびに違う気づきがあり、意味を取らないことで逆にいろんな意味が立ち上がってくる。
M氏はそのようなことを仰られていました。
俄然興味が湧いた私は、その会に参加させてもらえないかとお願いしてみました。
M氏は歓迎してくれ、このあとの忘年会で仲間たちに相談してくれるということでした。
しかしこんな近くにそんなことをやっている人たちがいるなんて、想像にも及ばないことがいろいろとあるんだなと驚くばかりの一幕でした。
数日後、今度は夫のH氏が店に来られました。
プレゼントのお礼のあと、さらにはM氏へのお返しの本を選んでほしいと仰います。
クリスマスのプレゼントにするそうです。
H氏は妻M氏の特徴を書いたメモを渡してきました。
メモから想像するというフォーマットまで踏襲していて、なんと粋な展開なんだとまたしても驚かされました。
私ひとりで選ぶのもあれなので、H氏と対話を重ねながら本を選びました。
その後、小林秀雄の素読についてさらに教えていただきました。
もともとは小林秀雄の担当編集者である池田氏(H氏は池田先生と呼んでいました)の講演をきっかけにはじまったコミュニティがあり、そこから派生して生まれたのが「美を求める心」素読会なのだそうです。
「美を求める心」には小林秀雄の思想の核が詰まっていて、これ以上にないテキストなのだとか。
最初は隔月で実施していた会が、やがて毎月開催となり今日まで続いているということでした。
そういうわけで、この「美を求める心」素読会に一度参加させてもらうことになり、場所を当店Lounge B booksで実施するという運びとなりました。
当日集まったのは6名、私を含めると7名です。
私は初めての参加ということになるので、まずは簡単に自己紹介をしたあと素読が始まります。
と思いきや、待ったがかかります。
参加者のひとり、最高齢の女性の方からひとつ提案がありました。
いつもは2ターンやるところを今回は1ターンにしないかというものです。
せっかくこうして集まったのだから、ただ読むだけで終わらず、もっといろんな話をしてもいいのではないかというのです。
素読が終わると、居酒屋かカフェのようなところに移動して懇親会のようなものをするお決まりの流れがあるのだそうです。
しかし、ガヤガヤとした喧噪の中では、その方は御耳が聞こえづらくなっていることを打ち明けてくれました。
それならばとエキシビジョンでもある今回は、素読を1ターンにして残りの時間をざっくばらんな雑談にしようと満場一致で決まりました。
かくして素読が始まりました。
あらかじめ10のセクションに分けられた文章を、セクションごとにリードする読み手が変わりながら進んでいきます。
リーダーが一行読んで、みんながあとに続き一行読む。
息をつく間もなく進むので、意味を取らないと言うよりも、取る猶予などないというほうが正確かもしれません。
とにかく目の前にある文章を読み上げることに集中し、40分で10ページを読み終えました。
小林秀雄のいわんとすることがわかるような、わからないような感覚です。
そもそもこの「美を求める心」自体、解るとか解らないとか論じることを否定しているので、メタ的にもおもしろいなという体験でした。
最後に、今後の展開について。
H氏の提案により、オリジナルの素読会とは別建てで、この素読を誰でも参加可能なオープンなイベントとして実施することが決まりました。
詳細は別途、告知として出しますが、まずは3/9開催の予定です。
ご興味のある方は、お待ちしております。