6.16(月)

湿度の高い月曜日。
肌は汗ばむが窓から入ってくる風は気持ちが良い。
村田沙耶香『授乳』を読み始める。
表題作「授乳」。
デビュー作の冒頭から不穏な雰囲気が漂う。
主人公の「私」、母親、家庭教師、三人が三人とも不気味とまではいわないまでも、読みながら緊張を強いられる。
その日私たちは一行も勉強をしなかった。先生はノートを出しっぱなしにして帰っていった。
村田沙耶香『授乳』(講談社)
卑猥と呼ぶには暴力的で、暴力と呼ぶには卑猥な一編であった。
6.17(火)
あまりの暑さに体力を奪われてしまったのか、夕方、昼寝をする。
夕方に寝ることを昼寝と呼んでよいのだろうか。
夜、子どもたちが寝静まってやっと本を読む時間ができた。
村田沙耶香『授乳』の続きで「コイビト」を読む。
大学生の「あたし」は大学の授業をほとんど寝て過ごし、夜に備えている。
恋人のホシオと眠りにつく前の数時間に一日のすべてをかけるために。
時計の針が八時を示す形になると、自分の毛穴が開いていくような感覚をおぼえる。あたしの体中に丸く、黒い空洞が無数にうかびあがって、酸素を吸収しだす。新鮮な血液が流れ出し、止まっていた心臓が動き出す。今まで自分がほとんど眠っていたことに初めて気づく。
村田沙耶香「コイビト」(『授乳』(講談社)所収)
夜の八時、布団に入り、ホシオと数時間の「団欒」をしながら眠りにつく毎日を送る「あたし」が、デパートで小学生と出会った日の出来事が描かれる。
恋人のホシオがぬいぐるみであるところが村田沙耶香らしい。
6.18(水)

芥川賞候補の残りの一作「鳥の夢の場合」が収録された「群像」が手元にないので、一旦、直木賞候補の作品を読むことにする。
逢坂冬馬『ブレイクショットの軌跡』。
逢坂作品は初めて読む。
『同志少女よ敵を撃て』も読んでいない。
580ページの長編。
本の厚みにひるんでしまう。
そもそも長編自体、最近は読めていないのにこの長さの本を読み通せるか不安を抱きながら読み始める。
自動車期間工として働く本田昴が、期間満了を迎える場面がプロローグで描かれる。
作業の終盤、隣で作業にあたる同僚が車内にボトルを一本目撃するが、自分以外誰も気づいていない。
報告すべきかやりすごすかという葛藤のなか物語は幕を開ける。
語り口はややハードボイルドながらも平易な言葉の連なりに、これなら完読できそうな見通しを得た。
そしてキーワードと言っていいのか今のところわからないが、ここでも「居場所」というワードが出てきた。
「幻龍さんという人がラップをしたときに、ここは居場所じゃないって感じたんです」
逢坂冬馬『ブレイクショットの軌跡』(早川書房)
6.19(木)
『ブレイクショットの軌跡』を読み進める。
第一章まで読み終えた。
分量でいうと2割くらい。
良いペースと言ってよさそう。
内容の方はと言えば、痺れますね。
「自分の人生の座標を、簡単な英単語三つで言い表わすなら、なんだと思う」
逢坂冬馬『ブレイクショットの軌跡』(早川書房)
投資ファンドの社長が第一章の視点人物、霧島に対してかつて投げかけた問いに、果たして自分はなんと答えるだろうか。
“ブック” は入れたいね。
6.20(金)
あまりにも夏っぽい。
そっちがそうならこっちもこうだとサンダルを履くことにした。
足元が涼しくなるだけでも快適さはずいぶんと違う。
これ以上暑くなったら脱げるものがもうないが、しょうがない。
作業の合間合間に少しずつ『ブレイクショットの軌跡』を読み進める。
今日は第二章。
視点人物が変わった。
そもそも前情報なしで読み始めたので、なにもわかっていなかったけど、どうやら群像劇っぽいつくりになっているようだ。
何度も登場する国産SUV社の車種「ブレイクショット」がひとつのキー、ひとつの軸となっているが、この名称、いささか恣意的すぎる気もする。
6.21(土)
注文していた『群像』が入荷してきたので、自分用にキープした。
駒田隼也「鳥の夢の場合」を読み始めるか『ブレイクショットの軌跡』を読み進めるかで迷ったが、ここはいったん読み進めることに。
半分を超えたあたりで、何かに似ている感覚があり、麻布競馬場『令和元年の人生ゲーム』だと思い至った。
内容そのものというよりも読み味が似ている気がする。
夜、風が強い。
ハイボールを飲みたくなり、炭酸水を買うために閉店間際のスーパーに行く。
半額のプリンを手にした知り合いに遭遇し、少しだけ立ち話をし帰宅した。
6.22(日)

駒田隼也「鳥の夢の場合」を読む。
シェアハウス生活をしていた4人のうち、ふたりが結婚し家を出たので、残りのふたりが新居を探す必要があるという中で、いろいろなことが回想されつつ話が進んでいく。
世界にも拍はあるのだろうか。
駒田隼也「鳥の夢の場合」(『群像2025年6月号』(講談社)所収)
夢の中を浮遊しているような、いつまでも覚めない静かな夢をみているような読み心地。
しかしこの感覚はタイトルに引っ張られすぎな気がしないでもない。